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卵巣がん

卵巣がんとは

 卵巣がんは、卵子を持ち、妊娠に必要な女性ホルモンを分泌する臓器である卵巣に発生するがんです。特徴は、症状がでるまで時間がかかり、症状が現れたときはすでに病気が進行していることが多いことです。また、進行するとすぐに腹腔内に拡がること、がんの種類が多く、それぞれに適した治療法が違うことなどがあります。卵巣の表面を覆う薄い膜から発生する上皮性卵巣がん(以下、卵巣がん)が卵巣がん全体の90%以上を占めます。

卵巣がんの現状

 卵巣がんは閉経後婦人に好発し、多くは50~75歳に分布しますが、年齢とともに罹患率の増加がみられます。日本では、年間10,000人以上が罹患し約4,000人以上が死亡していると推察されます(米国:罹患数約22,000人、死亡数14,000人)。また死亡率(人口10万人対)は年々上昇し、1990年の1.0が、2005年は6.9、2017年に7.4と、この30年間で7倍以上となり、横這い傾向がみられる欧米とは対照的です。2017年の死亡数は4,745人で女性の悪性新生物の部位別による死亡の10番目でした(厚生労働省 人口動態調査 平成29年)。

卵巣がんの症状

 なかなか症状が現れないことが多いのが卵巣がんの特徴です。はじめにわかる症状(初発症状)はおなかが張るような、押されるような感じであることがあります。しかしこうした症状が現れたときにすでに病気が拡がっていることが多いのです。それは卵巣がおなかの中(腹腔内)に露出した臓器であるからです。おなかの中には主に消化管(胃、小腸、大腸)が入っていますが、消化管が動きやすいように余裕があります。これを腹腔と呼びます。おなかの中に露出した卵巣が少々大きくなっても腹腔という余裕があるので押されるような(圧迫されるような)症状は起こりにくく、早い時期の発見を難しくしています。おなかが張る、時々原因不明の腹痛や便秘がある時は腹部超音波検査をおすすめします。さらに表面を覆う薄い膜(腹膜)が破ける(破綻する)とすぐにおなかの中にがんが拡がりがん性腹膜炎を起こします。

卵巣がんの診断方法

 診断方法には触診(おなかを触ってみる)、内診(内性器である子宮、卵巣を腔の中においた指とおなかの上に置いた手を使って触ること)という一般的な方法に加えて、超音波診断法(経腟、経腹)、CT、MRIなどを用います。がんの種類によっては血液の中に微量な物質(腫瘍マーカー)が検出されることがあります。

卵巣がんの病期分類

I 期
がんが片側、あるいは両側の卵巣にだけにとどまっている状態。
II 期
がんが卵巣の周囲、つまり卵管、子宮、直腸、膀胱などの腹膜に転移している状態。
III 期
がんが卵巣の周囲(骨盤内)の腹膜だけでなく上腹部にも転移しているか、あるいは後腹膜リンパ節に転移している状態。後腹膜とは、腹腔の背側にある腹膜と背骨や背筋との間の領域で、大動脈、下大静脈、腎臓、尿管などのある場所です。後腹膜リンパ節を便宜上、大動脈周囲の傍大動脈リンパ節と骨盤内の骨盤リンパ節に分けます。
IV 期
がんが腹腔外に転移しているか、あるいは肝臓に転移している状態。

 I、II期は手術によって完全に切除できますが、III、IV期は手術だけで完全にとり除くことができないという意味で進行がんといわれることもあります。
(国立がんセンター がん対策情報センターホームページより転用)

卵巣がんの治療

 手術療法と化学療法を組み合わせた「集学的治療」が基本です。また放射線療法を行うこともあります。

手術療法

1.卵巣の切除、卵管の切除
卵巣がんの基本的な治療法です。手術によっておなかの中を観察し病気の発生場所、種類、拡がりを確かめ、最終的な診断と病期分類を行って治療方針を決めます。 手術の内容は、病気が発生する卵巣とそれに接する卵管を切除します。進行がんでは両側を切除しますが、初期のがんでは一定の条件の下で病気がある側(病側)だけを切除することがあります。
2.大網切除術
大網は胃の大弯側から横行結腸の間に拡がる脂肪血管とリンパ節で構成される膜です。その働きは腹腔内で炎症を起こした場所を包み込み波及を防ぐことです。卵巣のように腹腔内に露出する臓器に腫瘍ができると腹膜に炎症を起こし、大網がその波及を抑えるために包み込みます。このため卵巣がんの転移が起きやすい臓器です。切除することで障害がおこることはほとんどありません。
3.後腹膜腔リンパ節郭清術
卵巣がんが転移しやすい臓器のひとつです。手術では転移を起こしている可能性のあるリンパ節を切除する「サンプリング」あるいはリンパ節とリンパ管を系統的に切除する「郭清術」を行います。
4.子宮全摘術
卵巣がんの転移が起こりやすい部位であることから子宮を切除します。
5.腸管合併切除術
卵巣がんの転移や浸潤が腸管に及んでいるとき、これを切除することで腫瘍の残存がなくなる場合や、これを著しく小さくできる場合には外科医と共同で腸管を切除し、健常部と再吻合します。

化学療法

 抗がん剤による治療のことです。卵巣がんの治療で抗がん剤を使う目的は手術でとりきれなかった腫瘍を小さくするため、あるいは根治的な手術ができなかった場合に残った腫瘍を小さくしてから改めて手術を行うために使用します。また手術ですべて摘出した場合にも再発を予防する目的で使用します。

  1. 上皮性卵巣がんに標準として用いられる化学療法は、タキサン系抗がん剤とプラチナ誘導体の組み合わせ(併用)です。副作用として、(1)骨髄抑制(血液中の白血球と血小板の減少、貧血)、(2)消化器症状(吐き気や嘔吐、食欲の低下)、(3)末梢神経障害(手足のしびれ)、(4)脱毛などがおこります。
  2. この併用で効果がなかった場合、あるいは再発・再燃した場合には、抗がん剤の種類を変更し二次化学療法、三次化学療法を行います。
  3. 最近では従来の抗がん剤に加え、分子標的薬剤、免疫チェックポイント阻害剤(治験段階)を併用した治療を行うようになっています。

放射線療法

 化学療法後に再発・再燃した場合、再発・再燃の場所が限局している場合に症状を抑える目的で行われることがあります。

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