乳がん
乳がんとは
乳房内には乳腺組織が存在します。乳腺はさらに乳汁を産生する小葉と、乳汁を乳頭まで運ぶ乳管で成り立っています。小葉と乳管は腺葉という単位を作り、15〜20個存在しています。乳がんは乳管と小葉から発生した悪性腫瘍です。乳管から発生したものを「乳管がん」、小葉から発生したものを「小葉がん」と呼びます。乳がんのほとんどは「乳管がん」です。現在、年間約80,000人の女性が乳がんに罹っているとされ(11人に1人の割合)、女性が罹るがんの中で第1位です。しかし、早期に発見すること、適切な治療を受けることで、他の癌に比べて良好な経過をたどります。
乳がんの症状
乳がんを疑う身体的症状として、
① 乳房や腋の下のしこり
② 乳房の皮膚のひきつれやへこみ、乳頭の陥没
③ 乳房の赤く肥厚した皮膚
④ 乳頭からの血液が混じった分泌液
が挙げられます。
乳がんの診断方法
乳がんを疑う場合には、以下のような検査を行います。
- 1)視触診:
- 指先を用いて注意深く乳房に触れて、しこりの有無、大きさ、可動性、皮膚状態、腋の下のしこりの有無について確認します。
- 2)マンモグラフィー:
- 乳房に対するレントゲン検査になります。触診では分かりにくい腫瘤、石灰化病変なども描出することができます。
- 3)超音波検査:
- 超音波の反射を利用し、乳房内の病変を画像に映し出します。マンモグラフィーでは描出できなかった病変を確認できることがあります。
- 4)穿刺吸引細胞診:
- 注射器に細い針を接続し、超音波装置でしこりやリンパ節の位置を確認しながら穿刺を行います。少量の細胞を吸引、採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認します。
- 5)針生検(超音波ガイド下、ステレオガイド下):
- 細胞診より太めの針を用いて、しこりから組織を少量採取し、病理組織標本で病理診断を行います。免疫染色法も行うことで、がんの性質について詳しく診断することが可能です。
乳がんの病期
- 非浸潤がん
- 乳がんが乳管内または小葉内にとどまっている状態の早期がん。
- I期
- 腫瘍の大きさが2cm以下で、腋の下のリンパ節への転移を認めない。
- IIA期
- 腫瘍の大きさが2cm以下で、腋の下のリンパ節への転移を認める。
もしくは腫瘍の大きさが2cmより大きく、5cm以下で、腋の下のリンパ節への転移を認めない。
- IIB期
- 腫瘍の大きさが5cmより大きく、腋の下のリンパ節への転移を認めない。
もしくは腫瘍の大きさが2cmより大きく、5cm以下で、腋の下のリンパ節への転移を認める。
- III期
- 腫瘍が5cmより大きく、周辺組織への浸潤やリンパ節転移を伴うものも含まれる。
- IV期
- がんが反対側乳房や肺・肝・骨・脳などの遠隔転移を認める。
乳がんの治療
乳がんの治療は、局所療法(手術、放射線療法)と全身療法(薬物療法)を組み合わせて行います。
1)外科療法(手術療法)
- ① 乳房温存術
- 乳房内に腫瘍が原則3cm以下で、術後の乳房の整容性が保たれると判断される方が対象となります。
- ② 乳房全切除術
- 乳房内に腫瘍が広範囲に拡がっている方が対象となります。胸筋を温存し、一部皮膚を切除します。
- ③ センチネルリンパ節生検
- 手術前の検査において、腋窩リンパ節に明らかな転移を認めない方が適応となります。がん細胞が最初にたどり着くリンパ節を指し、それを術中に迅速組織病理診断で転移の有無を確認します。その結果で腋の下のリンパ節を郭清するか、しないかを判断します。
- ④ 乳房再建術
- 乳房全切除術が必要な方に、乳房切除と同時に行う(一次再建)、もしくは後日に行う(二次再建)方法があります。人工物を用いる方法か、もしくは自分の脂肪や筋肉を用いて再建する方法があります。
2)薬物療法
- ① ホルモン療法
- 腫瘍にホルモン受容体(エストロゲンレセプター:ER、プロゲステロンレセプター:PgR)が存在する場合に適応となります。術後補助療法の際には閉経前と閉経後で薬物を使い分けます。基本的に術後5年間の投与を行いますが、再発リスクに応じて10年間継続することもあります。
- ② 化学療法
- 抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑える方法です。抗がん剤は単独で行うよりも、いくつかの抗がん剤を組み合わせることで効果が増強します。それぞれの薬剤の頭文字を取り、FEC療法、AC療法などの様に表します。
- ③ 分子標的薬療法
- 乳がんの増殖に直接関わる分子(マーカー)を標的として、その分子の働きを阻害する薬剤を分子標的薬といいます。代表的な薬剤としては、HER2タンパクを標的としたトラスツズマブがあります。
- 放射線療法
- 乳房温存術を行った場合、原則として残った乳房全体に照射を行います。また乳房全切除術を行った後でも、脇の下のリンパ節に多数転移を認めた場合は、胸壁や鎖骨上のリンパ節にも照射を行う事があります。
治療方法の選択について
大きく分けて以下の二つに分けられます。
① 手術→薬物療法・または薬物療法+放射線療法-放射線療法
② 薬物療法→手術・または薬物療法+放射線療法
針生検の結果を受けて、それぞれの乳がんの特徴に応じてどちらかの方法を行います。また、患者さんの希望に合わせて治療内容を検討、選択する場合もあります。
おわりに
当院における乳腺診療は、最新の科学的根拠に基づいた最良の医療の提供に努めております。また、直接係わることの多い各関連科(病理診断科、形成外科、放射線科、脳神経外科、整形外科、臨床遺伝科、歯科)とも連携を密にして診療に当たっております。また、メディカルスタッフとの連携も重要であり、外来、病棟スタッフ、外来化学療法室のスタッフとは常に情報共有を行っております。日本国内有数の臨床試験グループ(JCOG、JBCRG、CSPOR)、や海外の臨床試験グループ(NRG Oncology)、治験にも積極的に参加しております。お気軽にご相談下さい。