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Treatment

大腸がん

内科的

大腸がんとは

 大腸は直径約5~8cm、全長約1.6mあり、機能としては細菌による食物繊維の発酵、及び一部の栄養素と水分の吸収が行われる部位です。また、吸収されずに残ったものが便を形成し、排泄されるまでの間、貯留される部位でもあります。そこから発生するがんが大腸がんです。良性から悪性に進展する経路、突然癌ができる経路、潰瘍性大腸炎などの慢性炎症を背景にできる経路、その他の経路の主に4つの経路を経て大腸癌が発生します。

大腸がんの症状

 がんが腸管内にできると管腔が狭くなり、腹痛、繰り返す便秘と下痢が起こり、また便柱が細くなります。腫瘍自体から出血が起こると血便が見られます。

大腸がんの診断方法(図1)

 大腸内視鏡検査で腫瘍組織を採取し病理診断を行い確定診断となります。その他、注腸造影検査、CTなどが行われます。

  • 図1

大腸がんの治療

 がんの深さが粘膜下層浅層までに留まり、かつリンパ節転移がなければ内視鏡治療、がんの深さが粘膜下層深層以深に浸潤、もしくはリンパ節転移があれば外科的切除、遠隔転移があれば化学療法となります。内視鏡治療には主に以下の手技があります。

1) ポリペクトミー

 スネアに通電してポリープを切除することであり、主として有茎性病変〜亜有茎性病変の切除法として用いられています。

2) 内視鏡的粘膜切除術(EMR)

 病変直下の粘膜下層に生理食塩水などの液体を注入し、病変を拳上させた上でスネアを用いて通電切除する手技です。20mm以下の広基性〜表面型の病変に対し用いられます。

3) 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)図2,3

 ESDは粘膜下層への局注まではEMRと同じですが、局注後高周波ナイフを用いて病変周囲の粘膜切開と粘膜下層剥離を行う方法です。20mm以上の大型の腫瘍でも一括切除でき、また一括切除後正確な病理診断も可能です。

  • 図2
  • 図3

外科的

大腸がんとは

 大腸がんは、早期であればほぼ100%近く完治しますが、一般的には自覚症状はありません。したがって、無症状の時期に発見することが重要となります。大腸がんのスクリーニング(検診)に関しては、消化器内科のサイトをご参照ください。 ここでは主に、大腸がんの外科療法と化学療法を中心に解説いたします。

 大腸がんの確定診断のためには、大腸内視鏡検査が必須ですが、下剤で便を全部排出しないと精度の高い検査はできません。胃の検査などに比べれば多少負担のかかる検査といえます。

1)大腸内視鏡検査

 肛門から内視鏡を挿入して、直腸から盲腸までの全大腸を詳細に調べる検査です。もし、ポリープ等の病変を認めた場合、悪性か良性かどうかを調べるために病変の一部を採取して、どういう性状の病変かを顕微鏡で調べることもあります(これを組織生検またはバイオプシーと言います)。また、がんであれば深達度診断のために拡大内視鏡検査を行うこともあります(詳細は、消化器内科のサイトをご参照下さい)。

2)注腸造影検査

 食事制限(前日から市販されている低残渣食を食べていただきます)の後、下剤で前処置を十分行います。肛門からバリウムと空気を注入し、X線写真をとります。この検査でがんの正確な位置や大きさ、腸の狭さの程度などがわかり、手術の方法を決定するためには重要な検査です

3)腫瘍マーカー

 血液の検査で身体のどこかに潜んでいるがんを予測する方法です。しかし、大腸がんを早期に発見できる腫瘍マーカーはまだありません。CEAとCA19-9と呼ばれるマーカーが一般的ですが、進行大腸がんであっても約半数が陽性を示すのみです。腫瘍マーカーは転移・再発の指標として、また治療効果の判定基準として用いられています。しかし、転移・再発した場合でも必ずしも異常値を示すわけではなく、逆に転移・再発していない場合でも異常値を示す時もあり、経時的な測定が必要です。

4)画像診断(CT、MRI、超音波検査、PETなど)

 大腸がんの深達度診断と肝臓や肺(血行性転移)、腹膜(播種)、リンパ節の転移を調べるために用いられます。また、補助的な診断法としてPET検査が有効な場合があります。PET検査の必要性に関しては担当医と十分ご相談下さい。

5)直腸指診

 主に肛門に近い部位(下部直腸)にできた直腸がんに必要な検査です。深達度診断や自然肛門温存術(人工肛門を作る必要性)、経肛門手術(肛門からアプローチし腫瘍だけを外科的に切除する方法)の適応診断には、画像診断以上の信頼性を発揮することもあります。また、術前の肛門機能(肛門のしまり具合、失禁の有無など)を知るためには必須の検査です。

病期(ステージ)分類

 大腸がんと診断がつけば、どの程度のがんか、肝臓、肺などの遠隔臓器に転移があるのかどうかの検査が行われます。がんの拡がりの程度に応じて治療法も異なります。進行度の決定は、がんの大きさではなく、深達度、及びリンパ節転移、遠隔転移の有無によって規定されています。
 進行度を表記する場合、世界的にはTNM分類を多く使用していますが、国内では日本独自の「大腸癌取り扱い規約」に準じた方法で表記します。 詳しく知りたい方は、「患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版」大腸癌研究会を参照されるとよく理解できると思います。

ステージ分類
O期
がんが粘膜にとどまるもの
I期
がんが大腸壁にとどまるもの
II期
がんが大腸壁を越えているが、隣接臓器におよんでいないもの
III期
リンパ節転移のあるもの
IV期
腹膜播種、肝・肺などへの遠隔転移のあるもの

大腸がんの治療

 治療法には内視鏡的治療、外科療法、化学療法、放射線療法があります。
 ここでは、早期大腸がんの一部(粘膜下層高度浸潤)、または進行大腸がんの根治治療としての外科療法と化学療法について解説します。

1)外科療法
①結腸がんの手術

 結腸がんの場合、切除する結腸の量が多くても、術後の機能障害はほとんどおこりません。リンパ節郭清(かくせい)と呼ばれるリンパ節の切除とともに結腸切除術が行われます。

②直腸がんの手術

 直腸は骨盤内の深く狭いところにあり、直腸の周囲には前立腺・膀胱・子宮・卵巣などの泌尿生殖器があります。排便、排尿、性機能など日常生活の上で極めて重要な機能は、骨盤内の自律神経という細い神経繊維によって支配されています。通常は自律神経を完全に温存し、排尿性機能を術前同様に残すことも可能です。しかし、自律神経の近くで進行している直腸がんでは、神経を犠牲にした手術も必要となります。直腸がん手術は、進行度に応じたさまざまな手術法があります。代表的な手術である肛門括約筋温存術、永久的人工肛門について解説します。さらに低侵襲(からだにやさしい)手術である腹腔鏡手術法、ロボット支援下手術法について紹介します。

・肛門括約筋温存術(前方切除)

 以前は肛門に近い直腸がんの多くに人工肛門がつくられていましたが、最近では直腸がんの約8割は人工肛門を避ける手術ができるようになりました。自動吻合器という筒状の機械を使って、がんの切除後に短くなった直腸端と結腸の先端を縫合し、本来の肛門からの排便を可能にする手術法で肛門括約筋温存術と呼ばれます。この手術と自律神経温存術を併用すれば、術後の機能障害をかなり軽減することが可能となりました。さらに最近では、より肛門に近い直腸がんであっても早期がんや一部の進行がんで肛門括約筋を部分的に切除して自然肛門を温存する術式が専門施設で行われています。しかし、排便機能障害は必至であり、時間と共に排便回数は少なくはなりますが、手術前の排便習慣に戻ることは決してありません。特に高齢者の場合は、無理に肛門を残すと術後の失禁などのため逆にQOLを低下させてしまう可能性もあります。したがって病期の進行度や術後の合併症、後遺症などをしっかりと理解したうえで術式を決定することが極めて重要となります。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン(2014年版)

・永久的人工肛門(腹会陰式直腸切断術)

 肛門に広がる(浸潤)直腸がんや肛門にできたがんでは、人工肛門を造設する直腸切断術が必要です。患者会(オストメイト)や専門の看護師(WOCナース;Wound Ostomy and Continence Nurses)を通しストーマ教育を充実させ、人工肛門管理の自立と精神的なケアに務めています。当院外科の大腸専門外来(毎週月曜日と水曜日)でも、専属の看護師による教育や相談を行っています。お気軽にご相談ください。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン(2014年版)

③腹腔鏡手術

 大腸がんに対する腹腔鏡手術は1992年に国内で初めて行われ、腹腔鏡手術を施行する施設は徐々に増えてきています。当院外科では1997年から開始しており、2019年10月までに2500名の大腸がんの患者さんに行っております。炭酸ガスで腹部を膨らませて、腹腔鏡を腹部の中に入れその画像を見ながら小さな孔から器具を入れて手術を行います。がんを摘出するために1ヶ所だけ3~5cmくらいの傷が必要です。決して縮小手術(リンパ節郭の省略など)ではありません。小さな傷口で切除が可能ですので、術後の疼痛も少なく、術後7~10日前後で退院できるなど負担の少ない手術です。長期的には開腹手術に比べて、腸閉塞の頻度が少なく、整容性(傷の見た目)も明らかに優れています。


患者さんのための大腸癌治療ガイドライン(2014年版)

  • 従来の開腹直腸がん手術
  • 腹腔鏡下直腸がん手術

 根治性に関しては、おなかの中で行っている手術の内容は、開腹手術と同じことをやっていますので、決してがんに対しては縮小手術ではありません。進行結腸がんに対する根治性は、開腹手術と変わりないという国内の大規模な臨床試験の結果が2017年に報告されています。しかし、腹腔鏡手術は難易度が高く、特殊な技術・トレーニングを必要とし、外科医のだれもが安全に施行できるわけではありません。そのため、腹腔鏡手術を希望する場合には専門医(技術認定医)がいる病院を受診し、開腹手術と比較した長所、短所の説明を十分に受けて、腹腔鏡手術か開腹手術かを相談して下さい。
 入院期間は、術後の合併症によっては再手術や長期入院が必要になる場合もありますが、通常は手術の2日前に入院していただき、結腸がん手術は術後7日間、直腸がん手術は術後10日から14日となります。

④ロボット支援下直腸手術(da Vinci手術)

 2018年4月から直腸がんの患者さんに対して国内で保険適応となり、岩手医科大学でも昨年から開始しています。da Vinci(ダヴィンチ)手術ともいわれていますが、従来の腹腔鏡手術をさらに進化させ、患者さんの負担(侵襲)が少なくなるよう開発された、最新の低侵襲手術です。ロボット手術といっても、まだ人工知能を持たないロボットですので、あくまで操作するのは外科医です。腹腔鏡の技術と大腸がんの治療を十分に経験した外科医である腹腔鏡技術認定医というライセンスとロボットを操作する講習会を行うことが義務付けられています。当院では現在、3人の外科医がそのライセンスを持っています。

 ロボット手術は患者さんの隣に置かれたコンソールという飛行機でいうコクピットに座り、アームという4本のロボットの腕を操作する事で手術を行います。術者の手の動きはリアルタイムに鉗子先端の動きとして再現されるので、手振れ機能や多関節機能も備わっているので自由な動きが可能になりました。

2)化学療法

 大腸がんの化学療法は、手術後に再発予防を目的とした補助化学療法と、手術治療が難しいがんに対して生存期間の延長や生活の質の向上を目的とした化学療法があります。大腸がんに対する化学療法の基本になる薬剤は、フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン、オキサリプラチンなどです。また、分子標的薬としてベバシズマブ、ラムシルマブ、アフリベルセプト、セツキシマブ、パニツムマブが使用されます。その他に内服薬のレゴラフェニブ、トリフルリジンも使用します。

(1)術後補助化学療法

 手術によりがんを切除できた場合でも、再発の可能性はあります。そこで、手術後のステージが高かった場合、化学療法を行うことで、再発を予防するあるいは再発までの期間を延長できることがわかっています。このような治療法を術後補助化学療法といい、ステージIIの一部とステージIII期の患者さんに行われます。飲み薬であるカペシタビン、テガフール・ウラシル配合剤、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤や、点滴で行うフォルフォックス療法、のみ薬と点滴を組み合わせるカペオックス療法などがあります。治療期間は約6か月です。

(2)切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法

 癌をすべて取り除くことが不可能な場合、または癌が再発して手術ができない場合に行う化学療法です。大腸がんの場合、化学療法のみで完治することはまれで、治療の目的はがん自体の進行を抑え、延命および症状を軽減することになります。

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