岩手医科大学 臨床研究支援センター 治験ユニット

GCP基礎知識(医師向け)

2.治験責任医師の業務の流れ 【治験実施中】

2-1 被験者の選定

被験者の選定に当たっては、治験実施計画書の選択・除外基準に基づき、被験者の健康状態、症状、年齢、性別、同意能力、治験責任医師等との依存関係、他の治験への参加の有無等を考慮し、人権保護の観点から、治験参加を求めることの適否について慎重に検討しなければならない。

2-2 被験者の同意取得

被験者に、治験に関する事項について同意・説明文書を用い適切な説明を行い、質問する機会や考える時間を与えなければならない。同意取得に際しては、同意・説明文書に説明した治験担当医師等及び被験者の記名押印又は署名、及び日付の記入が必要である。また、治験に参加する前にその同意・説明文書の写しを被験者に交付しなければならない。

被験者が十分な同意能力のない場合には代諾者を、被験者又は代諾者が、同意能力はあるが同意・説明文書を読むことができない場合には、公正な立会人をおかなければならない。

なお、被験者が十分な同意能力のない場合であっても、被験者の理解力に応じて説明を行い、可能であれば被験者からも同意・説明文書への記名押印又は署名、及び日付の記入を得なければならない。

2-3 被験者に他の主治医がいる場合、治験参加の旨を当該医師に連絡

被験者が他の主治医により治療を受けている場合、治験責任医師又は治験分担医師は、既に投与されている医薬品等との相互作用による健康被害を防ぐため、また、併用禁止薬投与による実施計画書からの逸脱を防止するため、被験者の同意の下に、その主治医に被験者が治験に参加することを知らせなければならない。

2-4 症例報告書の作成

治験責任医師又は治験分担医師は、治験実施計画書に従って被験者ごとに正確な症例報告書を作成し、氏名を記載しなければならない。症例報告書の記載を変更又は修正する時は、その日付を記載し、これに氏名を記載しなければならない。また、治験責任医師は、治験分担医師が作成した症例報告書を点検し、記載内容が正確であること、記載もれ、判読不明がないことを確認した上で、氏名を記載しなければならない。

なお、治験協力者は、症例報告書の医学的判断を伴わない部分の作成補助を行うことができるが、その内容についても治験責任医師は、点検・確認を行わなければならない。

2-5 逸脱があった場合

緊急の危険回避又は医療上やむを得ない理由がある場合を除き、治験実施計画書から逸脱することは認められず、治験責任医師は、全ての逸脱内容と理由を記録しておくこと。

緊急の危険回避又は医療上やむを得ない理由により逸脱した場合は、その内容及び理由の記録を作成し、直ちに病院長及び治験依頼者に報告しなければならない。これらについては、治験審査委員会の承認、病院長の了承及び治験依頼者の合意を文書で取得しなければならない。

2-6 治験期間が1年以上になる場合

治験責任医師は、治験審査委員会の継続審査を受けるため、治験の実施状況の概要を年に1回以上又は治験審査委員会の求めに応じて、病院長に報告しなければならない。

2-7治験実施計画書が変更・改訂される場合

治験責任医師は、治験実施計画書が変更・改訂される場合は、治験依頼者と十分協議し、その改訂について合意しなければならない。必要に応じて、治験審査委員会の承認が必要となる。

2-8 重篤な有害事象が発生した場合

治験責任医師は、重篤な有害事象の発生を認めた時は、治験実施計画書に定める手順に従い、緊急報告(第1報)の後、詳細な報告を病院長及び治験依頼者に直ちに文書で報告しなければならない。その際、報告する重篤な有害事象における治験薬との因果関係を特定しなければならない。

重篤な有害事象(SAE:Serious Adverse Event)とは、有害事象のうち、

  1. 死に至るもの
  2. 生命を脅かすもの
  3. 治療のため入院又は入院期間の延長が必要となるもの
  4. 永続的又は顕著な障害・機能不全に陥るもの
  5. 先天異常をきたすもの
  6. その他の重大な医学的事象

をいう。

2-9 新たな情報を入手した場合

治験責任医師又は治験分担医師は、治験に継続して参加するかどうかについて治験に参加中の被験者(代諾者)の意思に影響を与えると認められる情報を入手した場合には、直ちに当該情報を被験者(代諾者)に提供し、これを文書に記録し、治験に継続して参加するかどうかを被験者(代諾者)に確認しなければならない。

さらに治験責任医師は、同意・説明文書を改訂する必要があると認めた場合は、速やかに改訂し、その旨を病院長に報告し、治験審査委員会の承認を得て改訂された同意・説明文書を用いて、治験参加の継続について改めて被験者(代諾者)の同意を得なければならない。

2-10 治験を中止・中断した場合

治験責任医師は、治験を中止・中断した場合には、病院長に対して、速やかにその旨を文書で通知するとともに、その理由を文書で詳細に説明しなければならない。

また、治験が何らかの理由で中止・中断された場合には、治験責任医師は被験者に速やかにその旨を通知し、被験者に対する適切な治療及び事後処理を保証しなければならない。

2-11 直接閲覧(SDV)への対応を求められた場合

治験責任医師は治験依頼者によるモニタリング及び監査並びに治験審査委員会並びに規制当局による調査を受け入れなければならない。その際、求めに応じて、原資料の全ての治験関連記録を直接閲覧に供しなければならない。

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