肝炎とは、肝臓の細胞に炎症が起こり、肝細胞が破壊されていく病気です。その原因には、ウイルス、アルコール、自己免疫等がありますが、日本ではウイルスの感染によって肝臓が炎症を起こす『ウイルス性肝炎』が肝臓病全体の約80%を占めています。
肝炎の原因となるウイルスで現在知られている主なものは、A・B・C・D・E型の5種類がありますが、最近特に問題になっているのは、血液や体液から感染し、慢性化しやすいB型とC型の肝炎ウイルスです。
日本には慢性肝炎ウイルス感染者(主にB型肝炎、C型肝炎)は日本で150〜200万人いると推測されています。しかし、医療機関で何らかの治療を受けている人は50万人にすぎません。残りの100万~150万人の中には自分が肝炎ウイルスに感染していることに気づいていない人がいる可能性があると言われています。厚生労働省が平成14年から市町村の住民健診に肝炎ウイルス検診を加えたところ、1年間で新たに3万人のC型肝炎ウイルス感染者が発見されています。
現在、ウイルス性肝炎は治る、もしくはコントロールできる病気になっています。検査をできるだけ早く受けて感染を知り医療機関で適切な治療を受けることで肝硬変や肝がんといった深刻な症状に進行するのを防ぐことができます。ウイルス性肝炎についての正しい知識を得て、早期発見・早期治療に結びつけましょう。
肝臓の病気にかかってもすぐには症状がでにくいため、肝臓は「沈黙の臓器」とも言われます。
気づかないうちに肝臓の病気が進み、わかった時点ではかなり進行している、というケースもあります。”なんとなく不調”といった原因は肝臓の病気の可能性もあります。こんな症状の時には病院で検査をうけましょう。
脂肪肝、慢性肝炎、肝硬変などの慢性肝疾患が悪化した時に食欲不振、吐き気とともに強い倦怠感が現われることがあります。また、急性肝炎でもこのような症状が現れることがあります。
血液中にビリルビンという色素が増えている状態で、白目の部分や皮膚が黄色くなってくる症状です。尿の色が番茶のように濃くなったりすることもあります。
手のひらの親指や小指のつけ根のふくらんだ部分が異常に赤くなる症状で、慢性肝障害の人によくみられます。
肝硬変の人は、胸、首、肩、腕に赤い斑点がみられます。これは小動脈の血管が拡張しているためで、よくみると赤い隆起を中心に毛細血管が放射状に浮き出ています。
肝硬変の男性で乳房が女性のように大きくなることがあります。押すと痛みがあり、中にしこりを触れることがあります。肝臓での女性ホルモンの排泄力が低下し、女性ホルモンが血液中に増加するためと考えられています。
肝硬変になり肝機能がかなり侵されると、尿の出が悪くなり、脚がむくむ浮腫や、腹部に水が溜まる腹水がみられます。
血液や体液から感染し、慢性化しやすいB型とC型
出産時に産道においてB型肝炎ウイルスに感染したお母さんの血液が赤ちゃんの体内に入ることにより感染が起こることです。感染後、B型肝炎ウイルスが排除されず、肝臓に住み着いた状態が続きますが、しばらくは症状がありません。しかし、免疫が強くなる15~30歳頃に一過性に炎症を起こした後に、85~90%の人はウイルスと平和共存してゆきます。残りの人は慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝がん)へと移行し、治療が必要となるとされています。
日本においては、昭和61年以降、母子感染予防対策が行われるようになっており、出産時のB型肝炎ウイルス感染はほとんど防げるようになっています。
以前は輸血、集団予防接種での注射器の使いまわし、医療者における針刺し事故等がありましたが、輸血血液については昭和48年以降、集団予防接種では昭和63年に感染予防対策が取られ、また、医療者の針刺し事故等もワクチンの予防接種導入により、ほとんど感染例はみられなくなってきました。しかし、現在では性的接触等による感染者が増加しています。
感染後、70~80%の人は肝炎とわかるような症状がなく治癒します。しかし、20~30%の人は典型的な急性肝炎の症状が見られ、まれに、重症な急性肝炎を発症することがあります。急性肝炎を発症した後に治癒しない場合は無症候性キャリアや慢性肝炎へ移行することがあります。
輸血による感染が問題となっていましたが、平成4年に輸血血液についてより高感度なC型肝炎ウイルス抗体検査が導入されたため、輸血による感染はほとんどなくなりました。
日本の感染者の多くは60歳以上の高齢者です。しかし近年の新規感染者は若年層が多く、覚せい剤等の注射の回し打ちや入れ墨(タトゥー)やピアス等の針の使いまわしによるものと推測されています。
C型肝炎ウイルスに感染すると約70%の方が持続感染となり、慢性肝炎⇒肝硬変⇒肝がんと進行しますが、自覚症状がないことも多く、感染していることを知らない方や知っていても医療機関に受診していない方が多いのが現状です。C型肝炎ウイルスに感染すると約70%の方が慢性肝炎を発症します。その後、およそ20年で約30~40%の人が肝硬変となり、そのうち年率約7%の方が肝がんへと進行します。わが国の肝がん患者の70%はC型肝炎ウイルス感染者であり、年間3万人の方が肝がんにより亡くなっています。
以下の方は特に、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかを調べるための検査を受けることをお勧めします。
一生に一度は肝炎ウイルス検査を受けることをお勧めします。
検査の結果、肝炎ウイルスに感染していることが分かったら、時期を置かずに医療機関を受診してください。
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