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子どものメンタルヘルスには、精神疾患だけでなく、不登校や非行など多様な分野があります。児童精神科は、子どもたちをサポートするために、医療や心理、行政、福祉、教育、警察、地域、自助グループなどの多様な社会資源と連携を図りながら、「子どもは発達する」という視点に立って治療を行い、子どものメンタルヘルスの向上を目指す診療科です。
子どもはこころの問題であっても、腹痛や頭痛、倦怠感などの非特異的な症状を示すことが非常に多く、気持ちの内面を言語化するのが難しい場合もあります。
一つの側面(学校のみ、家庭のみ、本人のみ)から、一時的な情報だけに頼って診断してしまうのではなく、その子の成長や環境の影響と変化を加味して、「経過をみて診断」するという視点が重要であることも児童精神科の大きな特徴です。
WHO(世界保健機構)によれば、全世界の児童・青年のうち、およそ20%は何らかの精神疾患やこころの問題を抱えているとされます。また、東日本大震災後の復興過程にある現在でも、さまざまな問題を抱え苦悩する子どもとその家族がいることを忘れてはなりません。
当科は、子どものメンタルヘルスに関わるさまざまな領域の専門機関・支援者・保護者・当事者と連携しながら、子どもの成長発達を見守り、伴走することを目指しています。
外来診療
児童精神科での対応は、外来治療が中心になります。当科の外来は完全予約制で、児童精神科全般の診療のほか、子どもデイケア、トラウマ専門療法(トラウマフォーカスト認知行動療法)、家族教室などを行っています。
子どもが示す様々な行動上の問題や症状を検討し、発達レベルや気質、家族や友人関係、幼稚園や学校などの環境の影響を含めて総合的に評価したうえで、一人ひとりの症状に合わせて、環境への介入・支援、さまざまな精神療法・心理療法、薬物療法などを組み合わせて行います。
主な対象疾患
・神経発達症(発達障害:知的障害、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、学習障害、チック、吃音など)
・精神病性障害(統合失調症など)
・感情障害(双極性障害、うつ病など)
・神経症性障害(不安症、強迫症など)
・トラウマ/ストレス関連障害
(PTSD, 愛着障害、適応障害など)
・解離性障害
・身体症状症(転換性障害、身体表現性障害など)
・摂食障害(拒食症、過食症など)
・行動障害(素行症など)
・その他(パーソナリティ障害、物質使用障害など)子どもデイケア
退院した子どもたちや不登校・ひきこもりの状態にある子どもたちが、学校や社会に戻るためのリハビリを目的に、専門スタッフのもと、少人数で手芸やアート、運動、グループ活動などに取り組んでいます。それらを通して、対人スキルを身につけ、少しずつ社会に適応するための自信をつけていきます。
トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)
当科では、国際的に効果が認められ欧米の治療ガイドラインでも子どものトラウマ治療の第一選択とされている「トラウマフォーカスト認知行動療法」(TF-CBT)を外来・入院ともに実施しています。
トラウマを受けた子どもは、つらかった記憶をその当時のままに凍結保存しているような状態にあり、苦しみにとらわれ続けてしまいます。TF-CBTは、考え方の癖やものの見方の偏りに気づき、適切に修正することで、精神症状や生活上の困難を改善することを目指す「認知行動療法」の手法を用いて、トラウマに焦点を当て、子どもだけでなく親も治療に参加しながら、トラウマの影響について学び、自分自身の症状をよく理解して、落ち着くための方法や役に立つ考え方、感情の調整スキルを身に着けていきます。そのうえで、つらいトラウマ体験と向き合って、偏ったものの見方や考え方、その癖を修正して回復していくという治療プログラムです。毎週1回、親子共にセッションに参加し、全18~25回(4~5か月程度)の治療期間となります。
TF-CBTリーフレット(PDF) -
当科には、全国の大学附属病院本院においては初となる児童精神科専用病棟「子どものこころ病棟」があります(2019年9月開設、18床閉鎖病棟)。
明るい雰囲気の病棟内には、食堂や遊びのスペース、学習室なども配置されています。集団でのプログラムが毎日実施されており、様々な遊びや運動、グループ活動、生活を通して子どもたちは回復し、成長していきます。
子ども専門の精神科医、看護師、精神保健福祉士、薬剤師、臨床心理士、作業療法士などの多職種が常在し、情報を共有しながら子どもたちのケアにあたります。てんくう教室
となん支援学校との連携により、子どもたちに入院中の学習機会を保障する訪問学級制度があります。「てんくう教室」と名付けられた学習の場では、教師が毎日授業を行い、子どもたちの学習をサポートします。季節の行事(七夕会、クリスマス会など)や節目のセレモニー(始業式・終業式・卒業式など)も行われ、子どもたちが学校生活に近い体験を積み重ねながら、主治医と教師の連携協力もと、包括的なケアを受けられるようになっています。