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岩手医科大学の救急医療への取り組みは、1962年に現在の中病棟地下に急患室を設置し、夜間休日の救急患者の診療を行ったことにはじまる。しかし年々受診患者数が増加し、1972年には年間一万人を越す状況となり、急患室の狭さやスタッフ不足などに苦慮する事情があった。1974年、本学医師団有志がその窮状を見かねて行動をおこし、救急医療体制の充実を求めて、岩手県、盛岡市、県立中央病院、医師会などに対してその改善と整備を要望した。その結果、当時の三田学長と千田知事のトップ会談が実現し救急医療体制整備計画が急速に進展することになった。さらに1975年、当時の厚生省は救急対策実施要項を示し、また厚生大臣の諮門機関の救急医療懇談会が、翌1976年、「当面とるべき救急医療対策について」提言し、現行の一次、二次、三次外来の救急医療体制の枠組みができ、さらに救急医学の研究ならびに教育体制の充実が重要視される背景があった。急患室当直医たちの「片手間に救急医療はできない」という嘆きと、熱意とが集結しやがて大きな声となり、大学当局や行政を動かすに至ったのである。本学の救急医療は外から押しつけられたものではなく、理想の救急医療をめざして自ら求め続けたものであった。
1980年11月1日、開設者は岩手県、運営は岩手医大が担うという全国に類をみない官民共同の救命救急センターがオープンした。岩手県高次救急センターの誕生である。その後の地域に密着した診療実績が厚生省から高く評価され、1996年には、広範囲熱傷・中毒・四肢切断などの特殊患者を受け入れる「高度救命救急センター」に認定された。これは、全国にある150カ所の救命救急センターのなかで7番目であり、東北・北海道では最初の認定である。この昇格に伴い、岩手県高次救急センターの正式名称は現在の岩手県高度救命救急センターに改められた。
救急医学は医学の原点であり、救急医療は医療の原点であるといわれる。また近年「いつでも、どこでも、だれでも、良い医療を」と求められている。迅速かつ常に的確な対応を求められる救急医療への要望と期待も大きくなっている。2001年4月、本学医学部に救急医学講座(遠藤重厚教授)が開設され、教育機関としての基盤もさらに整った。岩手県民の命を守るため、県の救急医療のリーダー的存在として良質の医療を提供することはもちろんのこと、医学生卒前・卒後教育、研修医や救急救命士などへのレベルの高い教育が使命とされる。 -
現在10名の講座内定員医師と約13名のセンター所属医師が日夜、診療を行っています。また質の高い看護に定評があります。昨年の3次外来収容患者数は4,500人以上です。数多くの実習生・研修生や視察を受け入れています。運用病床数は33床(ICU,CCU,HCU, 熱傷ベット)を基本とし、またドクターカーを1台所有しています。24時間体制で、一度に多くの人手がいる救急医療の現場はチーム医療が主体です。当センターの主な診療チームには内科系は消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、神経内科、中毒、外科系では整形外科、脳神経外科、熱傷、腹部外科、泌尿器科などを揃えます。救急精神科のサポートも整備されています。いつ起こるか分からない集団災害への備えも重要です。薬物毒物検査部門の管理運営は当センターが担当します。各診療チームが互いに協力しながら多面的な救急治療が行われます。1人の重症患者さんに複数のチームが関わって集中治療を行うことが少なくありません。generalな医学知識をもつ救急医たちが、special な医療チームを形成し、あらゆる病態に対処しうる体制を誇っています。